前回の記事(インターネット調査 定番~最新手法まで|市場ニーズを見誤らないためには?)では、インターネット調査の代表的な手法を紹介しました。
インターネット調査は、低コスト・短期間で実施できる非常に便利な調査手法です。一方で、実際の現場では、ツールの数字をそのまま信じてしまい、かえって市場を見誤るケースも少なくありません。
特に注意したいのは、次のような状態です。
これらは、どれも一見もっともらしく見えます。しかし、実際の経営判断にそのまま使えるとは限りません。
本記事では、前回紹介したインターネット調査の各手法について、実務上どこに注意すべきなのか、どのように使えば経営判断に役立つのかを、「FinMark Edgeが日常的にコンサル現場で使っている」からこそ分かる、リアルな視点で解説します。
目次
1. キーワードプランナーの「検索数」を鵜呑みにするな
Googleキーワードプランナーは、検索ボリュームや広告出稿時の競争状況を確認できる便利なツールです。しかし、実務上は注意が必要です。そもそも、最初に入力するキーワードの精度が低いと、出てくる検索ボリュームも大きくずれます。
たとえば、金属加工業がB2C製品を検討する場合に、「金属 雑貨」「収納」「インテリア」といった広い言葉だけで調べると、検索ボリュームは大きく見えるかもしれません。しかし、その中には、自社の製品とは関係のない検索意図が大量に含まれます。
逆に、「アルミ削り出し デスク収納」「真鍮製 ペット用品」のように、自社の技術起点で細かく調べすぎると、検索ボリュームが極端に小さくなり、「市場がない」と誤解してしまう可能性もあります。
キーワードプランナーは、単純に市場規模を測るツールではありません。実務で見るべきなのは、検索ボリュームそのものよりも、次のような点です。
「数字が大きい=需要が大きい」と見るのではなく、「この言葉で探している人は、何を解決したいのか」を裏読みしてみましょう。
2. Googleトレンドで「流行っているから商品化!」は大間違い
Googleトレンドも、使い方を誤ると判断を間違えやすいツールです。Googleトレンドで表示される数値は、検索回数そのものではなく、指定期間・指定地域の中での相対的な関心度です。そのため、「数値が高いから市場が大きい」とは言えません。また、季節性のあるキーワードは、一時的に大きく伸びることがあります。
Googleトレンドは、単独で市場規模を判断するツールではありません。
実務上は、次のような使い方が向いています。
特に新商品開発では、「市場があるか」を直接判断するのではなく、「どのテーマから調査を深掘りするべきか」を決める、言わば「調査の前に行う調査」として使うのが現実的です。
3. GA4を何となく眺めて満足してませんか?
Google Analytics 4(GA4)は、自社サイトのアクセス状況を確認するための基本ツールです。しかし「ページビューが多いページを見るだけ」で終わってませんか?
ページビューが多いページは、確かに関心を集めている可能性があります。しかし、それだけでは、経営判断にはほとんど使えません。重要なのは、ページビューではなく、次のような問いです。
GA4でわかることはたくさんあるし、目的によっても分析すべき項目は違います。でもそのためには、「探索レポート」等GA4ならではの機能を使いこなせないといけません。
GA4は「何となく眺めるツール」ではなく、「問いを立てて検証するツール」です。「このページはよく見られているからニーズがある」と判断するのではなく、「このページを見た人は、次にどの行動を取っているのか」まで見なければ、実務上の示唆にはなりません。
4. Google Search Consoleは「表示回数が多いキーワード」だけ見ても無意味
Google Search Consoleは、自社サイトがどの検索キーワードで表示され、クリックされているかを確認できる便利なツールです。しかし、ここでも注意が必要です。
表示回数が多いキーワードは、必ずしも自社にとって重要なキーワードとは限りません。単に広い意味の言葉で表示されているだけで、実際には顧客になりにくい検索者かもしれません。
また、クリック数が多いキーワードも、既に社名やブランド名で探している人が多いだけ、ということがあります。それを見て「SEOがうまくいっている」と判断すると、新規顧客の獲得力を過大評価してしまいます。
例えば、見るべきところはこんな点です。
Search Consoleは、「今どれだけ取れているか」だけを見て満足するツールではありません。むしろ、「取りこぼしている需要」を見つけるためのツールです。
5. Similarwebは中小企業が高額契約する前に冷静になるべき
Similarwebは、競合サイトの推定アクセス数、流入チャネル、検索キーワードなどを確認できる強力なツールです。「Webマーケティングで分析ツール」と言えば、どの紹介記事にも真っ先に出てくる超有名ツールです。
ただし、現実的には、個人事業主や中小企業が気軽に使える価格帯ではないです。公式サイト上では無料トライアルが中心で、詳細な商用価格は個別見積でとんでもない金額を提示されます。
また、Similarwebの数値はあくまで推定値です。特にアクセス数の少ない中小企業サイトでは、実数とのズレが大きくなることがあります。
よってここで問題になるのは、費用対効果です。もし、Similarwebを使ってやりたいことが、次の程度であれば、ラッコキーワードなどの低価格ツールで十分な場合もあります。
もちろん、中堅~大企業のデジタル戦略、EC市場分析、海外競合分析などであれば、Similarwebのような高機能ツールが有効な場面はあります。しかし、中小企業が「何となく競合調査をしたい」という理由で契約するようなツールではないです。
契約前に、次の点を冷静に問い直してみましょう。
高機能ツールは、使いこなせる人にとっては武器になりますが、高額な”安心材料”で終わるケースも多々あります。
6. オンラインアンケートは「買いたいですか?」と聞いた時点で素人
オンラインアンケートは、短期間で消費者の声を集められる便利な手法です。Freeasy、Questant、SurveyMonkeyなどを使えば、以前よりもかなり手軽に調査を実施できるようになりました。しかしここにも致命的な罠があります。
「人間は、アンケートに対して『建前』や『理想の自分』で答える」
アンケートで「買いたい」と答えた人のうち、実際に発売されたときに財布を開く人は、良くて数パーセントです。人間は自分の行動を予測するのが下手です。「どう思うか」という不確実なデータだけで商品開発や仕入れに踏み切ると、誰も買わない在庫の山を抱えることになりかねません。
本当に信じるべきは「アンケートの回答」ではなく、実際にテスト販売で「お金が動いたかどうか」という行動データです。
アンケートで重要なのは、買う理由だけではなく、買わない理由を明らかにすることです。たとえば、次のように聞くと精度が上がります。
アンケートは、数字を集めることよりも、意思決定に使える聞き方をすることが重要です。「70%が興味あり」といった結果だけで商品化を判断するのは、やめましょう。その70%が、実際にどの状況で、いくらなら、何をやめてまで買うのかを見なければ、売上予測には使えません。
7. SNS・口コミ分析は「声の大きい人」に引っ張られやすい
SNSや口コミ分析は、消費者の本音を拾ううえで有効です。一方で、SNSには大きな偏りがあります。投稿する人は、強い不満や強い満足を持っている人に偏りやすく、普通に満足している人や、特に何も感じていない人の声は表に出にくいからです。
また、SNS上で盛り上がっているテーマが、実際の購買市場として大きいとは限りません。話題性はあるが売れない商品、炎上はしているが実際の購買には影響が小さい商品もあります。
BrandwatchやMieruka Engineのようなソーシャルリスニングツールは、投稿量、感情、関連キーワード、トレンドを把握するには有効です。ただし、ツールで見えるのは、あくまで「投稿された声」です。「買った人全体の声」でも、「市場全体の声」でもありません。
実務では、SNS・口コミ分析は次のように使うべきです。
SNSの声は、答えではありません。むしろ、「この不満は本当に多いのか」「この声は購買行動に影響しているのか」を次に検証するための材料です。
8. まとめ:インターネット調査で最も危ないのは「中途半端に分かった気になること」
インターネット調査の最大のリスクは、情報が足りないことではありません。むしろ、情報が簡単に集まりすぎることです。
検索すれば
数字が出る
ツールを使えば
グラフが出る
アンケートを取れば
パーセンテージが出る
その結果、実際には十分に検証できていないのに、「市場はある」「競合に勝てる」「売れるはずだ」と思い込んでしまうことがあります。
だからと言ってインターネット調査が不要だと言うことではありません。圧倒的な定量データは、個人の勘や思い込みを凌駕します。
インターネット調査を正しく行いつつ、現場に行く、顧客に聞く、といった他の手法も組み合わせ、考えに考えて結論を絞り出す。そして何より「お客様が実際に買ったか」で判断する。
「売る」に王道はないのです。

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