事例紹介
 

食品メーカーの商品開発の事例

 
 

多品種化で利益率が低下していた塩メーカーにおける、商品ポートフォリオ再構築と新商品開発基盤づくり

家庭用・業務用の塩を製造販売する、従業員100名規模の食品メーカー様。
今回は、短期集中型のプロジェクトとして、コンサルタント数名によるチーム体制で支援を行いました。

長年にわたり安定した売上を確保されていた一方で、利益率の低さが経営課題となっていました。
同社からのご相談は、 「利益の出る、付加価値の高い新商品を開発したい」 というものでした。
一見すると、新商品アイデアやマーケットリサーチから着手すべき案件に見えます。
しかし、初期分析を進める中で見えてきたのは、単なる商品開発以前に、既存の商品ラインアップそのものを見直す必要があるということでした。

1. 初期課題の発見:売上は安定しているが、商品数が多すぎる

まず、商品別売上高の過去3年間の推移データを確認しました。
リストを受け取ったときの第一印象は、率直に言って「これほど多くの商品を扱っているのか」というものでした。
実際に分析してみると、売上の約8割を上位17%程度の品目が占めていました。 このような売上集中は、食品メーカーでは決して珍しいことではありません。問題は、売上が小さい多くの商品が、会社全体の利益にどのような影響を与えているかでした。

たまにしか売れない商品は、本当に利益に結び付いているのか。 多すぎる品目数が棚卸在庫や包材在庫となり、利益を圧迫していないか。 少量生産品の段取り替えや製造工数が、原価計算に十分反映されているのか。

そこで、商品開発支援でありながら、最初に行ったのは財務・採算構造の確認でした。
商品開発の第一歩は、必ずしもアイデア出しではありません。 利益を生みにくい商品構造のまま新商品を増やしてしまうと、SKUがさらに増え、製造・在庫・営業・管理の負担が増してしまいます。
同社の場合も、商品別の原価管理は「できているようで、十分には見えていない」状態でした。 SKU別粗利、B2B得意先別の採算、滞留在庫、包材負担、少量生産品にかかる製造工数など、すべてを厳密に数値化することは難しいものの、まずは影響の大きい項目から推定し、商品開発と商品整理を同時に進める方針をご提案しました。

2. 本質課題:商品整理が進まない理由は、現場の抵抗ではなく意思決定構造にあった

初期分析の結果を踏まえ、同社には商品整理の必要性をご理解いただきました。
しかし、翌月に出てきた商品整理案を見ると、廃番・統合の対象はわずか数種類にとどまっていました。 詳しくお聞きすると、そこには現場ならではの重要な声がありました。

「地域のお客様が買っている」
「少しでも売上があるなら残したい」
「昔の看板商品だったので残したい」
「特定の得意先との関係を考えると簡単にはやめられない」

これらは決して軽視すべき声ではありません。 現場の声には、顧客との関係、地域での信頼、ブランドの歴史といった、数字だけでは見えにくい重要な情報が含まれています。
一方で、それらが数値で検証されないまま全て温存されると、結果として多品種少量の構造が固定化し、利益率を下げる要因になります。

実は、商品数が多すぎるという問題は、何年も前から社内でも指摘されていました。
外部コンサルタントが指摘するようなことは、すでに社内の誰かが気づいている。これは多くの企業で起こることです。
ただし、社内で分かっていても、部門間の利害や過去の経緯があるため、なかなか意思決定まで進まない。
ここに、外部支援の役割があります。 私たちが果たすべき役割は、単に外から正論を言うことではありません。 社内で言いにくかった問題を数値で可視化し、将来予測を示し、意思決定の場に乗せることです。

3. 施策:社長直下の商品ポートフォリオ会議を設置

商品整理が進まない背景には、部門横断の意思決定会議が十分に機能していないという課題もありました。
特に廃番や統合に対して慎重になりやすいのは営業部門です。 顧客との関係を直接持っているからこそ、当然の反応でもあります。

しかし、営業は売上を守りたい。 製造は効率を上げたい。 開発は新商品を作りたい。 経営は利益率を改善したい。

それぞれの部門が正しいことを言っているにもかかわらず、商品全体を見て「何を伸ばすか」「何を維持するか」「何をやめるか」を決める場がありませんでした。 そこで、社長直下の商品ポートフォリオ会議を定期開催する体制をご提案しました。

この会議では、単なる情報共有ではなく、伸ばす商品、維持する商品、廃番候補とする商品などを定期的に判断することを目的としました。

商品開発と商品整理は、本来同じ場で議論されるべきです。
なぜなら、新商品を増やす一方で既存商品を整理しなければ、SKU数は増え続け、現場の負担も利益率の低下も解消されないからです。

4. 新商品開発の前提:会社にリスクを取る体力をつくる

商品開発には必ずリスクが伴います。
試作品開発、パッケージ制作、モニター調査、テスト販売、営業資料、店頭販促など、一定のコスト必要になります。
しかし、既存商品の収益構造が弱いままでは、そのリスクを取る余力が生まれません。
そこで同社では、まず商品整理によって利益率を改善し、商品開発に投資できる地盤を整えることを優先しました。

新商品開発とは、単に新しい味やパッケージを考えることではありません。 どの商品を残し、どの商品を整理し、どの領域に会社の限られた経営資源を集中するかを決めることです。

5. 市場調査:営業担当者の暗黙知を、会社全体の判断材料に変える

次に行ったのは、競合棚・価格調査です。 実は、営業担当者の方々は、日頃から競合商品や店頭価格、棚の変化をよく見ていました。 ただし、それは個々の担当者の頭の中にある暗黙知になっており、社内全体で共有・蓄積される仕組みにはなっていませんでした。
塩という商品は、毎月のように新商品が次々と出るカテゴリーではありません。 だからこそ、日常的に棚を見続け、価格・容量・パッケージ・用途訴求・競合の動きを定点観測することが重要です。

どの価格帯が主戦場か、塩売場とスパイス売場で何が違うか、消費者に用途が伝わるパッケージになっているか、高付加価値品は何を理由に高く売れているか。

これら、営業現場が持っていた暗黙知を、商品開発や価格設定に使える形式知へと変換することを重視しました。

6. 素材食品におけるマーケットリサーチの再設計

同社では当初、 「塩のような素材商品で、Webアンケートやモニター調査まで必要なのか」 という空気もありました。
たしかに、塩そのものについて「この塩は好きですか」「買いたいですか」と聞いても、有効な結果は出にくいです。
しかし素材食品で重要なのは、味の好感度だけではありません。

どの料理にどのタイミングで使われるのか。どの容器なら使いやすいのか。
普通の塩より高くても買う理由があるのか。日常的に買い続けるか、等です。

つまり、塩だからマーケットリサーチが不要なのではありません。調査すべきなのは「塩そのもの」ではなく、「使い方が変わる塩」です。 例えば、野菜がおいしい塩、肉料理に合うスパイス塩、卓上で使いやすい焼塩、のような商品コンセプトであれば、消費者調査の精度は大きく高まります。

こうした商品は、単なる塩ではなく、具体的な食卓シーンに結びついています。
そのため、Webアンケート、食卓写真モニター、試作品モニター、限定地域でのテスト販売が有効になります。

実際、塩のような素材食品であっても、業界大手では、アンバサダー施策やモニター企画、レシピ投稿、SNSでの使用シーン発信などを継続的に行っています。 これは、単に「塩の品質」を伝えるだけではなく、消費者が日々の料理の中でどのように塩を使うのか、どんな料理に合わせると魅力が伝わるのかを把握し、双方向のコミュニケーションをするための取り組みです。

この点は、社内でも以前から提案している方がいました。 ここでも再び「外部コンサルタントが指摘するようなことは、すでに社内の誰かが気づいている。」状態です。
しかし、「たかが塩でそこまでやる必要があるのか」「いい商品を作っていれば自然に売れる」という空気の中では、なかなか大きな声になりませんでした。

そこで私たちは、業界内の大手企業でも同様の取り組みが行われている事実を示しながら、こうした調査やモニター施策は特別なことではなく、素材食品であっても商品開発に必要なプロセスであることを共有しました。

大手企業が大手であり続けられる理由は、広告費や流通網だけではありません。 生活者の使い方を地道に観察し、レシピや使用シーンに落とし込み、商品価値を伝え続けていることにもあります。

7. 小さく試し、実売で判断する

但し、中小メーカーにとって、最初から大規模な市場調査を行う必要はありません。 むしろ、最初は小さく実験し、反応を見ながら絞り込むことが重要です。 今回ご提案したのは、次のような現実的な調査・テストの組み合わせです。

・20〜30人程度の食卓写真モニターで使用シーンを発見する
・30〜50人程度の試作品モニターで味・容器・価格感を確認する
・3〜5店舗程度の店頭テスト販売で実売を見る

近年ではFreeasyのようなセルフ型アンケートツールやWebモニターを活用することで、以前より低コストで実施できるようになっています。 ただし、安く実施できることと、意味のある結果が得られることは別です。 特に塩のような素材食品では、アンケートで何を聞くかが非常に重要です。

「この塩を買いたいですか」ではなく、 「どの料理に使いたいですか」 「普通の塩と比べていくら高くても買いますか」 「どの容器なら食卓に置きたいですか」

といった、商品化判断に直結する質問設計が必要になります。

8. 支援で大切にしたこと:商品を増やす前に、利益が出る構造をつくる

今回の支援で最も重視したのは、単に新商品案を出すことではありません。 商品を増やす前に、利益が出る構造をつくることでした。 食品メーカーでは、売上を守るために商品数が増え続けることがあります。
しかし、多すぎるSKUは、在庫、製造切替、受注管理など、目に見えにくいコストを生みます。 その状態で新商品を増やしても、会社全体の収益性は改善しません。
だからこそ、今回のプロジェクトでは、既存商品の整理と新商品開発を一体で進めました。
だからこそ、商品開発が単なるアイデア出しではなく、会社全体の利益構造を改善する取り組みに変わっていったのです。

9. 現在の状況と今後の展望

支援から数年後、同社のWebサイトが刷新されているのを拝見しました。 そこには、単なる「塩」ではなく、食卓での使い方が分かりやすい商品が並んでいました。 料理の時短に役立つ塩など、ユーザーニーズをしっかり捉える商品づくりになっているなと思いました。
素材としての塩を、生活者の調理シーンに合わせて再設計する。 その方向性が、商品ラインアップやWeb上の見せ方にも反映されていました。

食品メーカーの商品開発において重要なのは、単に新商品を増やすことではありません。
利益を生む商品構造をつくり、現場の技術を顧客起点で見直し、食卓で実際に使われる商品へと生まれ変わらせることです。
今回の支援は、まさにそのための基盤づくりとなったと信じています。

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